寵教師

淫魔の唯一のごはん



「責めて! あっいくいくっ! カオル先生いまっいい感じです!」
「どの辺?」
「前! 前です! ああああっ!」
「んー惜しい、まだいかせないわね、さすがに早いわ」
「んんう……いいんですよう……いっちゃいたかった……」
「まだまだよ。これからだから。ほらほら、早いわよ、焦らないで」
 22時、そんな声が隣室から聞こえてくるものだから、ノートをまとめている赤羽くんが居心地悪そうにもじもじしている。
「赤羽くんてさ」
 僕が声をかけると、赤羽くんは縮こまって飛び上がった、シャープペンシルの芯が折れるほど驚いたらしい。
「な、なに」
「経験ってあるの」
「なんの」
「セックスの」
 赤羽くんが顔を真っ赤にしている間にも隣室の声はヒートアップしていく。あっだめだめ、んんっ、もう入るわね、ああんっ。
「先生は?」
「僕? うーん、こんなに夢中になったのは赤羽くんが初めてだよ」
「じゃあ、俺もこんなに夢中になったのは先生が初めてだよ」
「いま柏崎アミナくんと自分がするところ想像して興奮してたわけじゃないの?」
「……だったらどう思うの」
「僕は全然構わないよ」
 僕は赤羽くんの居るテーブルに近寄る。赤羽くんは慌てて僕から目を逸らして身体を護るように肘を曲げる。取って食おうって言うんじゃないんだから。僕はとんとんと赤羽くんの英語のノートのスペルミスを指で叩いた。”extention”ではないよ、やりがちなミスだ、考えてごらん。
「構わない?」
「うん。別に赤羽くんが誰で何をどう想像していてても構わない。ただ、できたら誰で何をどう想像していたのか、教えてくれたらいいな」
 赤羽くんは少し不服そうだった。僕は言葉を続ける。ただね、実際に誰かと行為に及んでしまったら、僕は何をするかわからないな。
「俺は、先生が誰で何をどう想像してたかだけで、何をするかわからないんだけれど」
「誰ならいいの」
「俺に決まってるだろ」
「赤羽くん、今から、柏崎くんではなく僕とできる?」
「もちろんだ」
 赤羽くんはノートを覗き込んでいた僕の後頭部の髪を掴んで引き寄せ、自分も椅子から立ち上がった。唇が触れようとしたので、僕は首を倒して更に赤羽くんを引き寄せた。キスをはぐらかし、ハグの形になる。
「先生?」
「今から赤羽くんとするのは柏崎くんではなく利府アキマサなんだけれど、いいの?」
「いいから誘ってんだろ」
「言ってくれないと、不安だから」
 隣室から柏崎くんの感極まった嬌声が聞こえる。
「うーん、この際気になっちゃうなあ」
「なにが」
「赤羽くんが、他のひととするところ」
「構わないんだろ」
「赤羽くんが構うなら、僕も構いたいなあ」
 赤羽くんがキスをしようとして果たせず中途半端に浮いたジーンズのお尻を、僕は撫でる。触れた瞬間、逃げるように更に浮いたので、僕と赤羽くんは更に密着する。
「赤羽キヨラくん」
「……はい」
「お道具を使ったことはあるの?」
「先生が、何回か」
「自分では?」
「……初めてです」
「じゃあ、キヨラ、僕じゃなくお道具に犯されてみる?」
「……」
「ちゃんと痛くないやつにするから。あんまり嫌なら、無理にとは言わないけれど」
「先生は、先生があんまり嫌じゃないから、仰るんですよね」
 キヨラ、と、普段呼ばないほうで呼ぶと、それだけで赤羽キヨラはいろいろ期待してしまう子だ。僕を主とするかのように、敬語になる癖も、いとをかし。
「そうだね、どっちかというと、やってみてほしいから言っているね」
「じゃあ、します」
「うん。じゃあ、取ってくるから、待ってて。あ、自分では触らないでおいて」
「はい」
 キヨラを椅子に戻し、潤んだ瞳が閉じた瞬間、目尻に軽く唇で触れた。
 僕が引き出しからローターとローションを持ってくる間、キヨラはひとつひとつシャツのボタンを外していた。
「待たせたね」
「先生」
「僕が座るから、いっかい立って」
 キヨラが言われるまま、テーブルに片手をついて立ち上がる。
「ジーンズと下着、膝まで脱いで」
「はい」
 キヨラが僕に背を向ける。キヨラが恥じらってよく見せてくれないままボタンとジッパーが解かれる音がした。僕が椅子に座ると、首だけでこちらを窺ってくる。
「そのままもう少し近くに来て」
 キヨラは後ろ歩きで近くに来る。
「それで、お尻、よく見せて。お尻の柔らかいところを拡げて、お道具、入れやすいようにして」
 少しためらいが見られた。
「おいで、キヨラ。恥ずかしいかな」
「……とても」
「僕がやってあげる?」
 キヨラは顔を赤らめて考える。そして言った、自分で出来ます。
 キヨラが少し脚の幅を大きくし、ジーンズと下着を膝まで降ろした。そして両手でそれぞれ尻の肉をかき分けて、可愛らしい入口をよく見せてくれた。そうしながら、遠慮がちに振り返る。
「上手」
 僕はキヨラの右の尻を優しく撫でた。そして、ローションを最低限右手に取り、その入口になじませる。キヨラは腰を前後に軽く動かした、無意識だろう。
「簡単に入ると思うよ。ちょっと変な感じはすると思うけれど」
「先生の指で、いっかい」
「ん? だめ。お道具やってみようよ」
 それ以上は言い返さず、キヨラは反省するように更に身体を折った。僕はなじませるために入口をほぐしていた指でローターを持ち、軽く押し込む。やはり簡単に入った。
「あ……先生」
「うん。入ったから、服、着て、僕の膝の上においで」
「服を、着るの」
「うん。ジッパーとボタンはだめならいいから、とりあえず着られるところまで着てみて」
 キヨラは渋々といった風にためらいながら、下着を引き上げ、そのあとジーンズを着た。割れたジッパーからは、興奮しきって入りきらないキヨラが僕を求めている。僕は椅子をテーブルから斜めにして、脚を広げ気味に開いた。そしてキヨラに、片膝に座るように言う。キヨラ、コントローラー、貸してね。キヨラは服を着た際に背中側に生えたローターのコントローラーを、後ろ向きのまま僕に手渡す。そのまま、後ずさるように僕の膝に浅く腰掛けた。
「もっと深く座って。僕がキヨラを抱き締めるのが好きって知ってるでしょ」
 キヨラはためらうが、僕が後ろ向きのキヨラを抱きこんでしまうと、自然とキヨラが避けていた、中でものが動く感覚が生まれる。キヨラは声を耐えられなかった。
「キヨラ、お道具、まだ全然使ってるうちに入らないって、わかるね? 使い方、見たことくらいはあるでしょう」
「……はい」
 返事をしたキヨラに、良い子、と耳を噛む。キヨラが座っている脚を縦に揺さぶると、それだけでキヨラはあんあんと鳴いた。
「ああ、キヨラ、このコントローラー、おまえが使うといいな。僕に寄り掛かって、両手でコントローラーを持ちなさい。僕が支えるから、振動させて遊んでごらん」
「先生」
「うん?」
「たぶん、もう……あの、イってしまっても?」
「ああ、いいよ。でも、たぶんまだそんなには気持ちよくなれないよ。まあ、なるようには、してあげるから、やってみて」
 キヨラは、右手でコントローラーを持ち、左手で怖々とつまみを回した。そのタイミングで脚で突き上げると、キヨラはびっくりして僕のいる後ろ側に仰け反って身体を倒す。
「んあぁ」
 キヨラがしばらく、コントローラーを動かして遊ぶ。僕はキヨラがねだるのを待つことにした。そして、キヨラは想像通り、あまり経たずにねだってきた。もう少し奥なんです、先生。
「そう。じゃあ、僕が少しずつ奥に入れるから、いいところに当たったら、一気に電源を入れて。そうやって教えてくれないと、通り過ぎてしまうから、ちゃんとするんだよ」
「はい」
 僕はキヨラのジッパーの隙間からキヨラの脚の間に手を入れた。相当興奮してくれているようだ。そしてローションが少し残るそこに人差し指を入れると、入口の筋肉の輪が小刻みに締めたり緩んだりを繰り返す。
 すぐにローターが指先に当たる。それを少しずつ奥に押し込んでいく。
「んっああ、ぁあ、はぁあんん」
「キヨラ、大丈夫?」
「んん、はい、ん、もう少し、奥、です」
 少し指を進めると、キヨラが息をのんで肩を跳ねさせた。そして、力んだ指でローターの出力を最大にする。
「あああぁあ、はぁあ、せんせ、そこ、そこっ、あっだめ、イって、イく……」
「いいよ」
 キヨラは隣室の柏崎くんに負けずとも劣らない声で、下着の中に吐き出すことを恥じるように身体を丸めて達した。僕はローターの出力はわざと放置して、絶頂を遊びつくさせる。キヨラは途切れ途切れの大きな声を何度も上げ、逃れようとするように首を振って身をよじる。そうしている間にもう一度白を解放したようだった。まだ肩で息をしているし、内股はびくびくと震えている。
「あ……あっん……っは……」
 強張っている手にコントローラーを握らせてやると、キヨラは思い出したように操作して、ようやっとスイッチが切られた。安心したように深く息をするキヨラの中に、まだ僕の指は入ったままだった。それを教えるように、僕は指を少し奥まで進める。キヨラが身体を固くすると僕の指はきつく締め付けられた。
「続き、できる?」
「ん、っは、続き……?」
「僕、キヨラが他の人とどういうふうにするのかを見たいんだよね。要するに、僕の前で、オナニーしてみてほしいってこと」
「……たぶん、もう、いけない、ので」
「身体は? 満足?」
 キヨラは僕の指を小刻みに締めつけた。不随意だろう、その場所が満足できないことを確認しているのだ。
「足りない、です」
「そう。うん、じゃあ、少し手伝ってあげるよ。キヨラ、ベッドへ」
 キヨラがふらふらと立ち上がり、ベッドに倒れ込んで床に膝をついた。僕は先程開けた引出しからバイブレーターを取り出して、尻を突き出すような格好をしてしまっているキヨラの太腿に振動させながら触れさせた。驚かせてしまったようで、キヨラはひっくり返った声を出した。
「キヨラ、他のひととは、バックでするの?」
「そういう、わけじゃ」
「じゃあ、どうやって?」
「……したことが、なくて」
「そっか。じゃあ、正常位でやってみよう」
 先程あんなにもひた隠しにしていたことも、気分が乗ってくれば話してくれるキヨラだ。そういうところもキヨラの魅力だなあ、と感じる。
 キヨラはベッドに這い上がり、仰向けになって脚を開いた。ジーンズと下着がまだ膝に絡まったままだったので、片脚を脱がせてやると、よく見えるようになる。キヨラは確かにこれではイける自信がないだろう、芯がほとんどない。僕はキヨラの左足をもう少し開かせ、キヨラに言う。右手でできるね? キヨラは戸惑いながらも答えた、はい、やってみます。
 キヨラの右手がバイブレーターを蕾に押し付ける。ローションが残っていたようで、キヨラが思うよりも勢いよく入ってしまったらしい、キヨラの声が跳ねた。僕は振動とうねりの両方のスイッチを押し上げた。キヨラは声を上げるが、まだ身体は興奮しきれない。
「キヨラ、フェラは嫌いなんだっけ」
「んっ、はいっ……あれ、嫌で」
「手は?」
「手、なら……先生、なら」
「ふふ、僕はね、キヨラ、おまえが誰かとするときのを見たいんだよ」
「先生としないと、あんまり、気分になりません」
「そっか」
 僕は気をよくして、キヨラを右手で包んだ。キヨラが声を上げる。
「相手のひと、動かないの?」
 キヨラが眉を寄せて、ゆっくりとバイブレーターを入れていく。うねりと振動のせいで、思い切った動きができない。けれど、着実に身体は高まり、しっかりと芯を持った。キヨラは首をよじって快楽を訴える。息が声帯に引っかかって途切れ途切れの音が出ている。そしてキヨラががんばって入れていったバイブレーターは、いい場所に触れたらしく、広げられたキヨラの脚がびくびくと跳ねる。泣いているような声と、手の中で脈打つキヨラの欲望も、僕に助けを求める。先生、先生、イきたいです。
 僕はキヨラを緩く握り、速めに扱いた。キヨラの声が高くなり、腹筋が痙攣するままに声が出る。
「キヨラ」
「んっあ、あっ、はんっ、あ」
「誰としているの」
「せん、せ、先生とっ」
「他のひととは、どうやるの」
「し、ないです、しませっ、しない、ので、わからな、」
「そっか。じゃあ、ずっと知らないでいてもいいよ。でも、キヨラは真面目だから、勉強しようと思ってしまうかもしれないね」
「んっしな、しない、先生、先生に、教わります」
「約束だよ」
 僕は左手でキヨラを手伝い、右手で激しく直接追い上げる。キヨラは呆気なく、けれど派手に声を上げて蜜を吐いた。薄いようだった、これでは疲れてしまっているだろう、僕は近くにあった鞄を引っ張り寄せ、ウェットティッシュを取り出してキヨラを拭ってやる。バイブレーターも抜き、いちど跳ねるキヨラの声を楽しむ。キヨラは四肢を投げ出して息を整えている。
「勉強、邪魔してごめんね」
 キヨラは目を伏せたまま、口元で笑んで首を横に振った。
「このまま寝る?」
「……はい」
「わかった。僕はシャワー浴びるから、照明暗くするよ」
「はい」
 キヨラの呼吸はだいぶ静かになっていた。
 僕はシャワーを浴びながら、キヨラに煽られた身体を処理した。
 僕が捕まえた悪魔は、僕が与えるのが初めての食事だと言っていた、そして僕以外に求めないと言った。
 この悪魔は、どこまで僕を蝕むつもりなのだろう。そして僕は、どこまで悪魔を堕とすつもりなのだろう。
 隣室では、柏崎くんとカオル先生が、サッカーを見終わっている頃だろう。なぜかサッカーを見ていると、人間、喘いでしまうようだ。


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