寵教師

リハビリテーション



 俺は10時から腹が減っていた。今は12時、ぐうぐうと鳴っているのがわかる。
「赤羽くん、おなかすかない?」
「すいてる」
「何か作るよ」
「いや、いい」
「僕がおなかすいた」
「悪い、先、食べてて」
 俺の手元を先生が覗きに来る。俺は今は英語の、エックスバーなんちゃらという論文を必死に読んでいるところだ。
「難しい?」
「理解はできる。応用できない」
「なるほど。慣れるしかない部分はある、理解できているなら、簡単な文章で毎日2文ずつくらい樹形図を書いてごらん。だんだんできるようになるよ。赤羽くんならすぐじゃないかな」
「見てくれる?」
「もちろん。なんなら、今書いてくれてもいいよ」
 俺、腹減ってんだけれどな。言いだせずに、俺はもういちどシャープペンシルを握った。
「赤羽くん、がんばってて偉いから食べたいものあったら買って来るよ」
「担担麺」
「わかった」
 先生がそう残して、勉強部屋を出た。俺は猫背になるほど集中してひたすら英単語を線で結ぶ。けれどすぐに腹の虫が鳴いて、集中力が切れてしまった。俺がのけぞって体を伸ばすと、LEDが光っていた、そして覗きこむ先生もいた。
「わ、先生」
「お疲れさま。いったん食べようよ」
「もう出来てんの」
 時計を見ると、長針は一回転していた。随分頑張ってしまっていたようだ。先生が笑っている。
「いっぱい頼んだから満足してくれるんじゃないかな。切りのいいところで食堂へおいで」
 先生がそう言って踵を返そうとする。俺はペンを置いて、机の電灯を切った。先生についていく。
「一緒に行く」
「うん、おいで」
 部屋を出て、廊下を歩く。
「赤羽くん、おなかすいてたんだ」
「ああ」
「なんで我慢してたの」
「英語楽しい」
 先生は困って笑った。勉強楽しいのは嬉しいけれど、不摂生はよくないよ、赤羽くん。
 食堂は混んでいた。歩けないほどではないけれど、席を取るのは難しそうだ。ん? 部長こと黒松タカユキ先輩の横に座っている、彼の担任の永石ミミがおいでおいでをしている。部長はあまり楽しそうではない。ミミ先生は機嫌がよさそうだ。
「ミミ先生、黒松くん、ありがとう」
「んーん、タカユキはこうでもしないとゴハン食べないから」
 ミミ先生が答えた、部長はむっつりしたままだ。部長はミミ先生とうまくいっていないようなことをにおわせたことがあったけれど、いったい何があるというのだろう。でも確かになにかあるのだろう、部長は一切口を開かない。
「タカユキ、行こう」
 部長は無言で立ち上がって、ミミ先生のあとをついていく。部長の様子にびっくりしていた俺を見て、部長は少し笑ってくれた。
 窓のすぐ横の席は、少し肌寒い。
「お待たせしました、汁なし担担麺、ゲキカラアゲ、赤餃子、麻婆豆腐です。食後に杏仁豆腐とお茶をお持ちします」
 待つ暇もなかった。なんだか安心する声がメニューを告げて、机にとんとんと置いていく。
 そのクルーの格好をしているのは、なんということだろう、部長だった、彼は顔に「見るな」と書いて、料理を置き終えるとすたすたと戻って行った。
「……黒松くんのお小遣い稼ぎだよ。見ないであげて。いただこう」
 先生はそんなことを言って、麻婆豆腐の、きっと甘口だろう、香りをかいだ。
「いただきます」
 俺も部長の話どころではなく腹が減っていたので、汁なし担担麺の玉子の黄身を蓮華ですくい、最初に口に運んだ。生ぬるい半熟の黄身が好きだ。確か柏崎アミナは、あとで黄身に箸を入れるタイプだった。日比谷ユウヤ先輩は、最初に混ぜる。いろいろな食べ方がある。
 俺はあっという間に担担麺を食べ終えた。ゲキカラアゲを先生にひとつあげたらむせ返っていた。6つ来た赤餃子は先生はハフハフ言っていたので4つ俺が食べた。
「先生、大丈夫?」
「大丈夫」
 食べ終わると、先生は鼻をすんすんと鳴らしながら、ついてきたエビせんべいをかじっている。
「赤羽くん、足りた?」
「ああ。満足した」
「よかった」
「先生は?」
「僕はデザートがまだ」
「ああ、杏仁豆腐来るって言ってたな」
「杏仁豆腐が来る前に味わっておきたい」
 先生は、右手を俺のほうへ伸ばした。口の中、触らせて。そんなことを言った。
「は? え、先生、ここで?」
「うん。今、赤羽くんの口の中、あっつくなってると思うから、触りたい」
 先生が楽しそうなので、むげにできない。俺は言われるまま、差し出された先生の中指の第二関節までを口に含んだ。先生がにっこり笑う。
「やっぱり、いつもより熱いね」
 指が舌先を摘まんでくる。俺の鼻から、小さく変な声が出た。
「人前だと声が小さいんだね。我慢するのかな。赤羽くんはいい子なんだね」
「あ、ふ」
「うん? しみる?」
 違う、と言いたかった。ついでに指を抜いてもらう。
「帰れなく、なるから」
「いいんじゃない?」
「なにが」
「僕がなんとでもするよ。赤羽くん、こういう状況、弱いでしょ」
 先生が腰をやや浮かせ、わざわざ俺の耳元に口を寄せた。赤羽くんさあ、いつも、恥ずかしいところ、いろいろなひとに見てほしがるじゃない、黒松くんとは最近どうなの、日比谷くんともなのかな、柏崎くんは?
「……先輩方ともアミナともなんにもない」
 ふうん、じゃあなんでイってるときの写真とか声とか撮られるの好きなんだろうね、不特定多数がいいのかな?
 先生は言うだけ言って席についてしまった。
 俺は別に、撮られるのが好きなわけではない。確かに、撮ってほしいとねだったこともあった。でも、不特定多数に見てほしいわけではない。なんだろう、先生に何か、敢えて弱みを握られていたいというか、縛られていたいというか、よくわからない。でも、そのデータが流出するかもしれないと思うと、確かに、少し、いやらしい気分になる。本気で嫌なら最初から撮らせないし、先生の言うとおりかもしれない。
 俺は焼けた口の中を誰かに犯されたいと思った。もし目の前に先生でなく他の誰かが居たら、俺はその誰かに、犯してくださいとねだるのだろうか。
「先生、指、貸して」
「うん? いいよ、でも帰れなくなるんでしょ?」
「先生が、どうとでもするんだろ」
「そうだね。でも、勝手にイかないでよ? 僕だって赤羽くんに指フェラなんてさせてたら気分になっちゃうしさ、それにただでさえ赤羽くんは僕がイかないうちに勝手に気持ちよくスヤスヤするし」
「わかった」
 言葉で焦らされているのがありありとわかって、俺は食い気味に先生の話を遮った。先生は笑って、右手を差し出してくれた。俺は迷いなくその指を咥え込んだ。
「いずれは、待ても教えないとねえ」
 先生の指が、焼けて痛い粘膜をくすぐって慰めてくれる。痛くて気持ちがいい。
「昼間っから、何してるんだろうねえ、僕たち。ごはん食べに来たのに、こんなことになっちゃって」
 先生は机に頬杖をついて、ひたすら先生の指をしゃぶる俺を眺めている。指の腹を舌先で強く押し、けれど出ていかないように歯を立てる。次第に、唾液が先生の指に絡まって、じゅぷじゅぷと音を立て始める。
「赤羽くん、その恥ずかしい音、興奮するの判るんだけれど、周りのお食事中のひとに聴こえちゃうから、控えめにね。あと、よだれ、こぼさないように。いっかい綺麗にして」
 熱に浮かされた気分の中ででも俺はそれを聞いた。先生の指を強く吸って、絡まっていた唾液を飲み込む。先生の手に自分の手も添え、指を一本一本吸って、唾液が極力残らないようにする。
 すると、先生が俺の口から指を引き抜いた。
「あ……先生?」
「赤羽くん、デザートが来るみたいだよ」
 心臓が跳ねた。部長には、先生のと関係は薄々感づかれているようだったけれど、こんな昼間から外で盛っているとは思われたくなかった。
「エックスバー理論はね、本当は存在しないんじゃないかって今は言われつつあるんだ。その辺は本当に最近の話で、まだ明らかじゃない。習うこと全部が正しいとは限らないのがこの世界だ。あの理論も、少し前に教えた句構造規則も、一見よさそうに見えるし、本当の本当はあるのかもしれないし、まあ、言えることは、あの科目はまだまだわかりきってはいないってことかな」
 先生は突然真面目な話をした。俺は、正直あんまり頭に入ってこなかった。早くまた先生の指を咥えたい、それだけが頭を満たしていた。
「杏仁豆腐とお茶、お持ちしました」
「なんだい君か」
「悪かったね」
 部長が来たわけではなかったらしい。先生の口調だと、軽口を叩ける仲なのだろう。
 テーブルに、透明な皿に盛りつけられた可愛らしい杏仁豆腐と、中国茶が置かれる。俺はなんだかぞくぞくして、顔をあげられずにいた。テーブルに隠れて見えない俺の股間は、見なくてもわかる、既にボトムがきついくらい勃起している。
「利府くん、あんまりいじめないであげなよ? 痛がったり抵抗したら、ちゃんと良い子良い子したほうがいいって。利府くんだって厳しくしすぎて嫌われたくないでしょ」
「うーん、でも赤羽くんがそのほうがいいみたいなんだよね」
「もしかしてお邪魔した?」
「割といい感じではあったかな」
「それは失敬」
 俺はその誰かに髪を引っ張られ、上を向かされた。その痛みに顔を歪めながら、俺は達してしまったのを感じた。上を向かされているため、うまく息ができず、声は出なかった。身体だけがびくんびくんと椅子の上で痙攣する。
「あら、イっちゃった? 利府くん、いじめすぎだよ、髪引っ張られてイくまでするなんて焦らしすぎ」
「でも、なかなかいいと思わないかい」
「タカユキのほうがいいなあ」
「じゃあイかせないでくれないかな、部屋に帰るまでイかない約束してたんだけれど」
「その辺はごめんね、でも、いいものを見たよ。タカユキには敵わないけれど、確かにいい顔をする」
 俺は絶頂に喉をくっくっと鳴らしながら息をして、先生たちの言葉を聞いていた。
「じゃあ、食べたらさっさと帰らせてあげて、赤羽くんへのお詫びにお代はこっちが払っておくから」
「それでも安いくらいだね。わかった、じゃあ黒松くんにもよろしく」
「うん、またね」
 ようやっと髪から手が離れ、足音が遠ざかる。
「キヨラ」
 先生に名を呼ばれ、俺はまた身体中の血管が細くなるような絶頂を感じた。声は必死に殺したけれど、息がうまくできない。喉まで痙攣している。
「杏仁豆腐テイクアウトにして、帰ろうか」
 二度目の絶頂は長く、返事はできなかった。ただ、痙攣する身体を丸めるようにして、波に耐えていると、先生がウエイトレスを呼んだようだった。



 キヨラをなんとか部屋に連れて帰ってきた。杏仁豆腐はあとで部屋に届くようにした。
 道中はそれはもう面白かった、キヨラが立てないようだったのでキヨラの手を引っ張ろうとしたら触れただけでまたイくし、歩くだけで気持ちよくなってしまうみたいなキヨラは必死に歯をかみしめて声を堪えていた、そして部屋につき、今はキヨラにはシャワーを浴びてくるよう言ったところだ。
 シャワールームに密接したベッドで壁に耳をつけると、キヨラがたまに喘ぐのが面白い。精液でどろどろのそこを洗っておいで、ただしイかないこと。そう言い含めたので、言われた通りに身体を清めているところだろう。イかないこと、と言ってしまえば、キヨラはイくことしか考えられなくなる。
 シャワーの音が止まる。すぐに、キヨラは髪も拭かずにバスローブをまとって出てきた。可愛らしい部分でもあるが、手のかかる部分でもある。
「キヨラ、風邪をひくよ。髪を拭いなさい」
「髪……さっき、イったとき」
「うん?」
「先生が、したわけじゃないのに、イって、ごめんなさい」
「ああ、気に病んでいたのか、気にしないでいいよ、ただ、ちょっとだけ悔しいから、約束はしよう。いいって言うまでイかない。今日はそれを守ってくれれば、ちゃんと気持ちよくするから。でも、やっぱり悔しいから、相当意地悪はするからね」
「はい」
 キヨラは、ベッドに座っていた僕の向かいに来て、床に膝をついて、ご奉仕をねだるように僕の膝に手を置いた。
「キヨラ、意地悪、ひとつめ。フェラチオさせて」
「……はい」
 キヨラはフェラチオをされるのを好まない。僕のは舐めたがるのだけれど、僕が舐めると、その日は意地でもイかない。まあ、あまり我慢をさせると変なスイッチは入ってしまうようだったけれど、その最中のキヨラはたまらなく可愛いので、たびたび僕はこの意地悪をする。
 キヨラがベッドの上に寝転がる。その恥じらうように寄せられた膝を割って、僕はキヨラの既に苦しそうなそこに顔を寄せた。
「ちゃんと洗った?」
「ん……はい」
「なのにこんなドロドロなの?」
 キヨラのそこはしきりに透明な蜜を溢れさせていた。キヨラの興奮の証であるし、前に僕がこれをからかいすぎて泣かせてしまったこともあるくらいの、キヨラの恥の証だった。
「ごめ、んなさい」
「なんでそんなに興奮してるの? じゃあキヨラ、意地悪ふたつめ。お道具使うからね。太めのバイブがいいかな。じゃあキヨラ、舐めるからね。お道具も入れるから、イかないでね」
「はい……」
 キヨラの膝を手のひらに当てるようにして、キヨラの脚を開かせた。それだけでじわりとにじむキヨラの興奮の涙を、舌先ですくっていく。
「う、んん……あ! ん、ふうっ」
 可哀想なくらい脈打っているキヨラは、何度も射精しようと痙攣するが、そのたびに悲鳴で快楽を逃がし、なんとか持ちこたえている。
 強く吸ってやると、キヨラが息を詰めて僕から逃れようと腰が揺れる。それも許さず、何度も筋を舐め、吸い、キヨラがイこうとする瞬間に歯を立ててイかせない。それを繰り返すと、すぐにキヨラは泣き声になった。僕を呼び始める。
「せ、んせ、も……もう、だめ、イき、そ」
「我慢して」
「できな……」
「して」
「おねがい、します」
 キヨラは僕の肩を両手でつかんで、ぼろぼろ泣きながら僕に哀願を始める。
「せんせ、おねが、します、も、もう、だめ、イくの、だめなら、舐めるの、嫌……」
「キヨラ。僕の意地悪、まだひとつめだよ?」
「でも、それ、ほんとに、俺、だめで」
「仕方ないなあ、お道具にする?」
「お道具……」
「僕は本気でイかせようとするから、キヨラは本気でイかないようにして」
「なめる、のは?」
「僕が満足できなかったら、また舐めようかな」
「ん、わかり、ました、イかない、です」
「うん。じゃあ、太いやつだから、イったりしたら締まって苦しいからね。ちゃんと我慢して」
「は、い」
 太いと言っても5センチメートル弱だ。入らなくはないだろう、苦しいだろうけれど、苦しいほうがイきにくいだろうという僕のなけなしの思い遣りだ。
 キヨラの入口は何度も焦らされたせいか、ひくひくと入れてほしそうに動いていた。そこにバイブレーターを宛がう。それだけでキヨラの身体は跳ね、声は高く鳴る。
「あ……は、う……」
「力抜いてね」
「ん、はい……ん……ん!」
 入口が押し広げられ、苦しそうな声が部屋に反響する。無機物がキヨラを犯していくのを見ると、背徳的で煽られる。
 バイブレーターの首が引っ掛かった。キヨラは息も絶え絶えで深手を負った鹿のように喉をひゅうひゅう鳴らしながら呼吸をしている。
「少し勢いつけて入れるから、力入れたら切れるかもしれないね」
「や……はっ……いた……」
「切れたらもっと痛いし、しばらく僕とできなくなるから、ちゃんとするんだよ」
「ん、あ……はい、ぁぐ、ひ、うぁっ」
「うん、入った。お利口さんだね。ご褒美に、気持ちよくしてあげるね」
「せん、せ……ひっ、あ、ぁあ、や、いやあっ、くっ、嫌、せんせ、だめ、ぁ」
 首を飲んだキヨラは、ひとりでにバイブレーターを奥へ飲み込んでいく。代わりにキヨラを苦しめているのは、僕の口淫だ。バイブレーターを飲み込んでいるキヨラの口が、苦しそうにプラスチックを締め付けているのが見てわかる。
 キヨラが必死に嫌がり、苦い蜜をにじませる。2度達していてもきちんと感じている味がする。
 バイブレーターの振動のメーターを一気に引き上げた。キヨラがさながら酸でも被ったスピッツ犬のように悲鳴を上げる。
「い、あ、せ、んせ、だめ、たすけ、て、だめ、先生、せん、ぁ、せんせ」
 いじめている当人に助けを求めるキヨラが可愛くてならない。
「だめ、や、あ、せ、んせ、やだ、やだぁ……」
 僕は口を離す代わりにキヨラを手で覆った。
「ぁ、あ、や、たすけ、たすけて、いや」
「キヨラ、答えられる?」
「ん、は、はい、せん、せ」
「なんでキヨラは、今こうやって苦しいの?」
「せ、んせ、との、やくそ、く、破った、から」
「わかってるんだね」
「は、い……く、う、ぅあ」
「じゃあ、今、キヨラは良い子かな? ちゃんとイかせてもらえる良い子なんだと思う?」
「おもい、ます、ちゃんと、がま、ん、して、せんせ、に、いわれ、みたいに、ちゃんと、してます」
「そっか。じゃあ意地悪みっつめ、聞いてくれる?」
 キヨラは上からも下からも涙をこぼしながら、小さな声で言った。先生、苦しくて、できそうにありません。
「できない子は、良い子なのかな?」
「せん、せ……」
「それに、僕にフェラされて、いつもはイくの嫌がるじゃない。今日だけイきたいなんて、ね? 変でしょう」
「そ、れは……」
「ね、バイブ動かしたら、イってしまうかな」
 キヨラは激しく首を縦に振って、泣きごとを漏らす。もうだめです、これ以上は、壊れてしまいそうです、苦しいです。
「キヨラに壊れられると困るなあ。僕はキヨラが大好きだから」
「ん、俺、も、せんせ、好き、大好き」
「大好きなひとに言われても、イくの、我慢できないの?」
 キヨラはしばらく、与えられる快感のなかで頭を使っていた。そして、考えているうちに、身体が熟してしまう。キヨラは、快感もわずかしか伴わず、射精もなしに、快楽の波を超えた。腰が浮いてしまうほど激しく淫靡に振られ、身体が震える。
「キヨラ、イった?」
「く……ア……」
「だめだって言ったのに」
「う……」
「イってるの、長いね」
「く……せんせ……」
 キヨラの息が若干整った。
「せんせ、先生」
「キヨラ」
「抜いて、くださ……触るの、や」
「疲れちゃった?」
 キヨラは睫が震えるほど激しく感じながら、頷く。
「そっか。休憩しよう。夜はちゃんと入れてあげるから、そのときに射精も許してあげるよ。だから、せっかく濃いの作ったんだろうし、自分では今日は射精しないで」
「わかり、ました」
 僕はキヨラから手を離す。そしてバイブレーターを抜いてやる。すると、急に拡げられる刺激にキヨラは悲鳴を上げ、唐突な射精に至った。
「……だめだって、言ったのにね」
「んん、う、ふう、うっ、ご、ごめ、なさ……」
「気持ちよくもないでしょ」
「は、い」
「本番いく?」
「も、イけない、ので」
「キヨラがそういうときは、大抵ちゃんとイってくれるんだけれど」
「せんせ、反省、してます、先生じゃ、ないひとで、イって、ごめんなさい」
「うーん」
「俺、先生に、見られるの、好きで、だから、写真も、録音も、好きで、だから、ほかのひとに、されるの、好きなわけじゃ、なくって」
「うん」
「先生に、興奮、してほしくて」
「うん」
「だから……あの……」
 困り切っているキヨラを見ているのは楽しかったけれど、そろそろいじめすぎだろう。僕は自然と噴き出していた。
「いいよ。キヨラ、休憩だ。杏仁豆腐を食べようか、そろそろ届いているんじゃないかな」
「はい」
 キヨラが幸せそうに口角を上げる。
「意地悪し過ぎたかな」
「いいえ」
 キヨラはそのまま意識を失った。最後まで僕に従おうとするそのさま、あまりに愛おしい。


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