寵教師

白で縛りたい



 赤羽さん、それ、素敵ですね。柏崎アミナが、俺の尻にそう声をかけてきた。20時、クラムチャウダーを飲みたくなってインスタントを買ってきたところで、部屋着のアミナと鉢合わせたところである。オーバーサイズのスウェットの上にベルト、デニムのホットパンツのアミナは、何度見てもやはり魅力的な体つきだ。
「ああ、さっきアキマサ先生がくれたんだ。鍵につけてくれると嬉しいって言ってた」
「へえ、ふうん。赤羽さんはご存知でしょうか、わたし、それ買えなかったんです。申請書が通らなくて」
「申請書?」
「やっぱりご存知なかった。購入の目的を書くんです。その申請書が通ったら、発注されるんです」
 俺は議題のキーホルダーを、体を捻って手のひらに乗せ、まじまじと見る。
 白いふわふわのモヘアと白いリボン生地による太い縞の、小さなネクタイのようなチャームだ。金具はなく、すべて柔らかな生地と、ほんの少しの刺繍で出来ている。
「あー……綺麗だなあ。欲しかったなあ。なんて書いたら通るんだろう」
 アミナが俺の尻ポケットに入っている鍵についているチャームを、しゃがんで見詰め始める。その行為に不自然さがないほどこのチャームが綺麗で品が良く惹きつけられるものであることは、詳しく知らない俺でもわかった。
「……先生にアミナの分も頼んでみようか?」
「うーん」
 アミナは難しい顔をした。
「確かに、欲しいは欲しいんですけれど……いただくのは、ちょっと。赤羽さん、このチャームのテーマ、調べてみるといいと思います。ご存知ないみたいなので」
 そう、知らなかった。知らないことは自分で調べる力が必要だ。けれど、俺は考えが及ばずに、先生本人に訊いてしまったがゆえに、いまベッドの上にいる。先生はきちんと服を着たままベッドに腰掛けており、俺はパーカーを脱いだところだ。これからすることなど、知れている。知れないのは、チャームのテーマだ。
 先生が、Tシャツいちまいになった俺に手を伸ばしてくる。俺も先生のほうに身体を倒す、抱きとめられるかと思ったのだ。けれど先生は、俺を抱えたあと、数秒と経たずに身体を離してしまった。火種を残して離れていったその手には、件のチャームがあった。
「プレゼントの意味まで考えてくれるとは、嬉しいよ、キヨラ」
 先生は言いながら、ネクタイのチャームをするすると解いてしまう。鍵に結びつけるための布の輪っかのついた、刺繍入りの上質な帯が先生の手の上にある。
「キヨラ、もう少しこっちへ来て」
 俺は言われるまま、ベッドの上を四つに這って、先生の近くへ行く。先生が今度こそ抱き締めてくれたと思って目を閉じたのだけれど、首に違和感を覚えた。思わず、息を吸う音を喉が発する。
「ああ、ごめんね、ただネクタイを締めただけだよ」
 先生の手が、真っ白なネクタイを惜しむようにねっとりと離れていく。もともと小さなチャームなので俺からは見えない。けれど首に手をやってみると、確かに何かが結ばれている。そして、布の輪っかがあることもわかった。
「それで、その輪っかに手首を通して」
 右手を従わせても、まだ輪っかに余裕があり、先生が何をしたいかはわからなくなっていく。
「先生、左手も?」
「うん」
 両手を首にくくり付けられた状態になる。なんとなく、やりたいことがわかってきた気がするけれど、先生はよく突飛なことを始めるので、俺は何も言わなかった。
「うん、いい感じ。じゃあキヨラ、ちょっと姿勢を変えよう。下は、脱がせていいね?」
「はい」
 先生が俺を押し倒しがてら、ボトムと下着を脱がせる。Tシャツとチャームだけになった俺は、ベッドの上に立った先生に両脚を引っ張られてびっくりした。背中と尻の下に枕が押し込まれ、高い位置にされる。俺の脚は自然と顔の横に落ちてきた。手を無意識に首から離そうとすると、するりとネクタイが締まり手首が首に結び付けられる。
「苦しくない?」
「平気です」
「身体やわらかいね」
 先生は笑った。
「……本題に入るよ?」
 俺は期待してしまった。先生は、なにを見て俺にすることを決めるのか訊いてみたくなるようなことをすることがある。俺のひっくり返った視界で、さかさまの先生が、珍しく封を切ったゴムを持って、微笑んでいる。
「キヨラはまだお浣腸は無理だから、ゴムを入れてしてあげよう。今のキヨラの姿勢だと、自然とお尻の筋肉が緩む。それで、キヨラの中にゴムを入れて、たぷたぷになるまでローションを入れるよ。なんでそんなことするか、わかるかな、キヨラ?」
 俺は首を横に振った。もう話も半分しか聞けない。ローションはあまり使ったことがない。待ちきれなくて、既に入口がひくついている。
「イくときは、腸が縮まるからね。そうすると、キヨラの中にいっぱい入ったローションがどろどろ溢れて、そのチャームを汚してしまう。僕からのプレゼント、汚したくないって思ってくれるよね?」
「もちろんです」
「じゃあ、キヨラ、始めよう、少し冷たいよ」
 固めのローションが、俺の入口を濡らした。それだけで俺の身体は跳ねた。そのまま先生の指がゴムをまとって入ってくる。中の壁を拡げるように、筋肉に沿って解していく。まだ快感は少ないけれど、興奮は高まっていて、俺の息は荒くなっていた。
「んー、もっと入ると思うんだよなあ……」
 先生がもう片方の手の指を入れたようだった。ぐい、と、入口が大きく開かれ、くちゅりと音がした。空気で腸が重たいような不思議な感覚があった。
「ああ、拡がったね」
 先生は片手は抜き、もう片手の2本の指で入口を拡げたままにする。スースーして、俺は知らずのうちに熱い溜息を吐いた。
「入れるよ、力入れないでね、すぐ縮んでしまうから」
 ローションのふたを開けるさかさまの先生が見えて、俺は深く息を吐いた。ほんの少し、緊張する。先生が笑ってくれる。
「大丈夫だよ」
 先生がかなりかがんでまでして、俺にキスをくれる。
 唇が離れるや否や、とぷとぷと音がして、おなかの奥が重たくなっていく。
「あ、あ……先生……」
「うん。初めてだしね、不思議な感じがすると思う」
 そうは言ったものの、かなり入る。圧迫感は普段よりも少ないけれど、圧迫してはだめだ、という思いが強くて力を抜くと、更に奥までローション入りのゴムが入ってくる。
「は……あ」
「いっぱい入るね。お浣腸をやってみるときが来るの、楽しみだな」
 新しいプレイの単語に、身体が勝手に反応する。一瞬締まった腸が、ローションをほんの少し押し出してしまう。とろとろと、おなかのほうにローションが流れてきてしまった。
「せ、んせ、ごめんなさい、あ」
「うん。これくらいならセーフセーフ」
 先生の指がローションを拭ってくれたため、ネクタイは無事だ。
「もうちょっと、入るね」
「ん……あ……」
「苦しい?」
「う、ふ……」
 何か話すとまた粗相をしてしまいそうで、必死におなかから力を抜く。
「……これくらいにしておこうか」
 先生がぱちんとローションのふたを閉める。何があったわけでもないけれど俺の身体は震え、中でぷにぷにとやわらかいゴムが壁に当たる感触がある。そして、入口の筋肉が、中からローションが溢れようとするのを阻んだ。
「ふふ、上手上手。お尻の筋肉で止めるのも手だよね。でもたくさんの量を筋肉で止めようとすると、ローションはかえって遠くまで汚してしまうかもしれないよ。お尻の中に入っている感覚にキヨラが慣れたら、もう少し足したいな」
 先生の指がくるくると、入口から覗くゴムの縁をなぞった。くすぐったくて、半端に締まったそこから、ぴゅ、と、ローションが中から溢れてしまったのがわかった。
「はあぁ……あ……」
「ねえキヨラ」
 先生が声のトーンを変えた。楽しそうだ。
「ローター当てても、我慢できる?」
 できるわけがない、俺は少しくすぐったいだけなのに漏らしてしまうというのに、何を言うのか。救いを求めて先生を見るが、先生は既にローターを用意してにこにこしていた。
「ゴム、結んであげようか?」
 必死に頷いた。必死になりすぎて、とろとろと腹をローションが伝う。その感覚に全身が力み、結構な量のローションが溢れてしまったのがわかった。
「んー、そういうところを見ると、もうちょっと入れてあげたいなあ。キヨラ、もう少し入ったら結んであげるよ。力抜いて」
 無理だと伝えたくて、でももっと漏らしてしまうのは嫌で、俺は呼吸をひきつらせた。ひっと喉が鳴る。でも、中にみっちり入っている感覚は、癖になる。もっと入ったら、もっと気持ちいいかもしれない。
「キヨラ?」
 俺の葛藤に気付いたのだろう、先生が俺を覗き込む。俺は息ばかりの声で無意識に口を動かした。先生、もっと。
「破けちゃって困ってるのかと思ったよ。じゃあ、もうちょっとね」
 もうローションのふたの音だけで俺はどうしようもなく興奮してしまう。先生が常々言う、俺の中がひくつく、という現象を、身体で感じながら、俺は深く息をして、入口とお腹の力を抜く。
「……2回目だから、こうなっちゃうよねえ。キヨラ、続ける?」
 先生の言葉は、先程のようにうまく中が拡がらないことから組み立てられたようだ。身体も、焦らされた心までもが興奮してしまって、入口を拡げてもローションの水位が定まらない。長く拡げられていたため、刺激を求めて勝手に壁が動いてしまうのだ。
「せん、せ、中」
「中?」
「いっぱい、入れて、出ないようにして……気持ち、いい」
 先生が、気に入ってくれたんだね、と、嬉しそうに微笑んだ。そしてまた指で入口を拡げ、今度は少しずつ、中に流し込んでいく。
「はっ、あ、はっ」
「キヨラ、楽に」
 ケーキの生クリームを絞るパティシエのように、先生が中のゴムを膨らませるように握った。圧迫感が強くなるが、もうなんでも気持ちいい。
「あ、あ……」
「結んだゴムごと全部入れちゃおうか」
 先生がゴムを結んで、俺の中に、ずいと飲み込ませた。
「ああ、は、ぁあ」
「それでね、キヨラ」
 楽しそうな先生が、俺の太腿の裏を撫でる。
「この体勢だと、少し力が入っても、中に戻るから。キヨラ次第でずっと楽しめるね」
「ん、先生」
「うん?」
「せんせ、は、楽しめる?」
「もちろんだよ」
 先生がとても嬉しそうだ。俺も嬉しくなって、少し笑った。笑う筋肉の動きに合わせて、中のゴムの形が変わる。ふにふにと気持ちいいけれど、出ていこうとする感覚は気持ち悪い。
「キヨラ、ちゃんと気持ちいい?」
「ん、はい」
「でも物足りないかな?」
「……はい」
 その返事だけで恥ずかしくて目を伏せてしまう俺ににこにこした先生が、振動音を響かせた。ローターだった。ふたつある。
「1個入れて、1個前に当てたら、ちゃんとイけるかな」
 俺の返事を待たず、先生は後ろにローターを押し込んだ。
「んぁっ……は、あああ、ひ、んん!」
 中の深いところまで振動が伝わり、それだけでなく先端に押し当てられたもうひとつの玩具が俺の声を引きずり出す。俺が喘げば、ゴムの結び目が入口の筋肉の輪を出たり入ったりして、それがまた気持ちいい。
「あ!」
 先生が結び目を摘まんで、重たいゴムを少し引っ張り出した。代わりに、ローターを奥に押し遣る。そしてゴムも入れられ、振動が更に奥へ進んだ。ものすごい質量のローションがローターを圧迫した。それが欲しい場所の少し手前で止まってしまって、けれど腰を使うこともできず、ただ、ひゃあひゃあと無意味な声を上げることしかできない。
 そんな状態なのに、あろうことか先生は先端を責め続けたまま竿を扱き始めた。
「いぁあ、っひ、んんあっ」
「キヨラ、汚さないようにイくんだよ」
「あぁふ、ううぁ……んん!」
 先生が俺の脚を更に曲げさせると中の角度が変わり、ローターが欲しい場所にきちんと当たる。たまらない感覚に泣き喚くような声が出た。
「……ああ、中の場所がいいのかな。キヨラ、そのままイくとチャーム直撃だよ」
 本能をしのぐ先生の言葉に、俺は身をよじる。イきたいけれど、チャームは汚したくない。でも、身体を動かすと中が締まって、ちょうどいい場所にあるローターが違った刺激を送り込んでくる。
「キヨラ、結んでいるの、ほどけてしまうよ」
 唐突に先生はそんなことを言った。興奮によって狭くなった中に入りきらなくなったゴムの口が、何度も圧力をかけられたせいで持ちそうにないようだった。
「や、や……汚し、たら、嫌……せんせ、結んで」
「うん、じゃあ力を抜いて、中の体積を大きくしてくれないと」
 できない。中はもういつ弾けるかわからないほどの興奮でびくんびくんと震えているのだ。
「で、きませ……せん、せ、や、やだ……」
 思わず手で遮ろうとするが、両手は首につながれている。
「せんせ、先生っ、う、いあ」
「ほら、あんまりおなかに力を入れると解けるよ」
「や……あぁんっ! ひっは、う、あぁあ!」
 先生が言いながら更にゴムを押し込んできて、その重みに悲鳴を上げた瞬間、ゴムがほどけた。
「う、んっぁあああぁ!」
 一気に水圧が減って、身体から必要な刺激が抜けていく。とどめようと力を入れたらローターが中で締め付けられ、俺は鳴きながら達した。すると中はぴっちりと壁同士がくっつくほど縮まり、ローションが全部だくだくと溢れ出てしまった。おなかをどろどろと伝い、首の白い布に吸われそうになったとき、先生がするりとチャームの結び目をほどいてくれる。
「は、っはあ、せ、んせ、ごめん、なさ」
「ううん、いつもと違うキヨラが見られて嬉しいよ。あとこれを汚したら、さすがに僕もスノーホワイトに怒られてしまうからね」
「スノーホワイト……」
 スノーホワイトは、世界的に有名な服飾のブランドだ。そんな立派なものをもらっていたのか。
「ときに、キヨラ」
「……はい」
 息を整えながら先生の言葉を待つ。
「とろとろになったキヨラを見ていたら、なんだかムラムラしてきちゃった」
 先生の手が、ローションの上から俺の脚の間を撫でた。
「でもその前にご褒美だね。問題の答えを教えよう。柏崎くんがチャームを買えなかった理由だったね。申請書に、贈り物とか観賞用とか、欲しい理由をきちんと書いて送ったのなら、そうだね……単に発注数が多すぎたんじゃないかな。柏崎くんには発注状況のアドレスを送っておこう。待っていれば、届けてくれると思うよ。カオル先生とお揃いにしようとふたつ頼んだのなら、結構先になるだろう。僕も結構待った。購入者が自由にこの白に意味を持たせていい、というテーマのチャームだから、スノーホワイトは目的に応じていろいろ工夫してくれる」
「先生は、なんて?」
 先生は恥ずかしそうに笑った。
「恋人がチャームを見る度に僕を思い出してほしい、絶対に喜んでくれるのはこれだと直感した、とか、いろいろ。つけているときっと似合う、とかね」


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