イガカシ

AGAIN



「僕は本当は自分が地縛霊になっていて、ずーっと同じことを繰り返しているだけなのに、生きているつもりで気付いていないだけのような気分になることがあるんだ」
 寝室に向かう途中、リユウはそう言った。
「こうやって歩いている地縛霊。永遠に歩き続けるんだ。何度も何度も、この一歩を繰り返すんだ、前に進むことなしに」
 リユウが私のスーツの裾を掴んだ。
「こうやってギブの手を引っ張る地縛霊。全然不幸じゃないよ、僕はギブと一緒に居る地縛霊になるなら、歓迎するよ。でも、おんなじく繰り返すなら、もうちょっと、もうちょっとだけ、満たされた気分で繰り返したいなあ。要するにギブ、僕はいま、ギブに抱かれたくて仕方がないんだよ。ギブと永遠にセックスしていたいんだ」
 私は黙ってリユウの肩を抱いた。寝室のドア、これを開けたら存分に繰り返そう。
 リユウの肌寒い部屋で、私は何も言わずにリユウをベッドに縫いとめた。
「あまり、外で煽らないでほしい。リユウ、私だって、リユウと永遠にセックスをしていたい。でも、リユウに地縛霊になってほしくはない。私は地縛霊のリユウの相手をする自分に嫉妬している」
「ギブは面白いね」
 会話はあった。けれど、私の手はリユウのシャツのボタンを外すのに一生懸命だったし、リユウの手は私のボトムからシャツを引っ張り出し、隙間から手を差し込んで私の背を撫でていた。
「ギブ」
 リユウが呼ぶ。会話が切れたら開始の合図だ。私はリユウの唇に食らいついた。
 リユウは恍惚とキスに酔う。時折鼻から漏れる声は濡れている。
「ん、んぁ、っふ」
 リユウの薄い胸には熟した果実があった。硬く尖っているのは、部屋が冷えているせいか、興奮のせいか。
「んう! ん、」
「……っ」
 そこを撫でて遊んでいると、閉じられたままのリユウの脚の膝が、馬乗りになっている私の脚の間を刺激してくる。
「リユ……ん」
 逃さないと言わんばかりに、離そうとした唇は再度喰らわれ喰らいあう。
 リユウのボトムを脱がせるために、私はリユウの片膝を折った。ボトムをずり下げ、その中途半端な格好のまま、露わになったリユウに右手で触れた。
「ふううっ! んん、ぁ、ううんっ、っは」
 リユウの唇を解放し、リユウをうつ伏せにさせる。リユウよりも私のほうがだいぶ背が高いので、私が4つに這ってもまだリユウの背と私の腹の間には余裕がある。
 リユウのボトムが片膝から抜け、その脚の足首のあたりともう片脚の膝のあたりに絡まる。
 リユウは既に興奮もひとしおで、リユウの肘で支えられている上半身をびくびくと痙攣させながら絶えず声をほとばしらせている。
「ギブ、もういい、入れて」
「指から、だ」
「だめ、やだ、ちゃんと入れて」
 リユウの泣き声も聞かず、私はリユウのそこに右手の中指を押し込んだ。リユウの前から溢れたローション代わりにもなりそうなほどのぬめりが抵抗を逃がす。
「や、ああ、あぁあああっ!」
 私は少し驚いてしまったが、リユウはそれだけで吐精した。内腿ががくがくと震え、逃れたがるように嫌がるときのように顔を振っている。
「リユウ?」
「はぁ、は、ギブ、」
「そんなに思いつめていると思わなかった」
「ギブ、ごめんなさいは?」
 上がった息でそんなことを言うものだから、私はリユウが可愛くてならない。
「ごめんなさい」
「普通、僕が命令されるんだけど、ね……ねえ、ギブ、終わらせないで」
 『もう一度僕にギブを与えなさい』、私の母国語である英語でそう呟かれて、私は絶頂のせいできつくなったリユウの中の指を再度動かし始める。達したばかりで強すぎる刺激に、リユウは何度も悲鳴を上げた。
「っあ、ぁああ、ギブ、ギブ、っは、あぁあん、あ、ギブ、っく……」
 中のしこりを何度か指で突くと、もう一度リユウは上り詰めた。
「リユウ、今日は随分……」
「言わ、ないで。ギブ、アゲイン」
 その命令に、思わず私は指を引き抜いた。先程から煽られてばかりで欲求不満だったそれを、リユウの中に埋めていく。
「はあ、あぁぁ、ぎ、ぶ」
「リユウ、」
 年相応の狭くてきついそこを慣らすために、何度か試運転のように浅く出し入れをする。それでさえリユウは歓喜の声をあげてつらそうにシーツを掴んでいる。
「もっと、もっと、ギブ」
 一度奥までおさめたくなり、深く突いた。すると、リユウはまた吐き出す。
「リユウ……」
 なにかおかしい、と、私はいったん冷静になろうと熱を抜こうとした。すると、痛いほどきつくきつく締め付けられ、動けなくなる。
「アゲインって、言ってる、でしょ、ギブ、勝手に、終わらせないで」
「せめて、何かあったならそれを」
「思い当たるんじゃないの」
 はて。
「……いいよ、続けて。アゲイン」
 そんな怒られたような気分で続けられるはずがない、と思ったが、アゲインと言われるたび、体に火がついて止まらなかった。
 深くまで、何度も、ゆっくりと揺さぶる。
「んぁあ、ああ……っは、う、んんぅ……」
 そのスパンを速くしていく。リユウが小さく笑った。
「ギブ、きもち、いい?」
「っ、ああ」
 自分の声は少し上ずっていて、私も笑ってしまいそうになった。
「中に、くれる? あ、んぁっ、」
 リユウの片腕を引っ張って私の首にかけさせた。リユウの表情が少し見やすくなる。
 戸惑ったような瞳がたまらなかった。
 動きを性急なものにし、中を存分に汚した。
「ぁあっ! あ、ああぁあんっ! んっん、あっ!」
 リユウも同時に達し、もう何度目かもわからない絶頂を楽しませた後、私は身を引いた。
 リユウは何度も繰り返し求め合った余韻の中で、ベッドに転がって息を整えている。
 私はベッドに座ってリユウを見ていた。まだ問題は解決していない。
「地縛霊」
 リユウが呟いた。
「地縛霊?」
「そう。マナブが、変なのを呼んだ。あの子は霊感が強い子だけれど、まさかあそこまで強いと思わなかった。僕はマナブと出会うまでそういう超常現象は信じていなかったんだけれど、マナブは見事にそれを僕に納得させた」
 なんとなく面白くない。私と求め合った後にほかの男の名を出すとは、いかがなものか。
「それで、どうして何度も、アゲイン、と?」
「地縛霊は色気がだめなんだってマナブが言ってた。だから、誘って誘って、追っ払おうと思って」
 要するに。
「霊が怖かった……?」
「う……」
 リユウはただでさえ染まっている頬を更に染め、目を流した。
「ギブが、護ってくれるでしょ」
「もちろん」
「じゃあギブ、アゲイン」
「……またか?」
「ギブのほうが1発じゃつらいでしょ。もう1回、付き合ってあげる。もうわだかまりもないし、次はただ気持ちよくなろう。ほら、アゲイン」


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