イガカシ

BABY



 朝、リユウを起こしに行くと、既に起きていた。私が部屋に入っただけで、こちらを見もしないで私を呼んだ。私がベッドに歩み寄る間、何度も何度も呼んでいた。
「ギブ……ギブー」
 枕に顔を押し付けているのか、声がくぐもっていて、いつもの可愛らしい甘えた声でなく、死にかけのカナリアのような細い声だった。
「リユウ」
 私は競歩でベッドに近寄った。
「ギブー……おなかが痛いー……」
 腹痛のデータベースを手早く検索する。
「おなかの、どのあたりだ」
「ん、この辺」
 うつ伏せになっていたリユウは横向きになった。リユウは私の手を取って、下腹部に宛がわせた。冷たい手だった。
 位置は、盲腸でも胃炎でもなさそうだ。
「あ、ギブが触ってくれたらちょっと楽……」
 リユウは息を吐いた。
 如月の朝、部屋は暖かいが、リユウは『寝起きに外が見たい』と窓の大きい部屋をとったため、足元は少し冷気を感じる。
「どう痛い?」
「ずくずくする。痙攣しているみたいだ」
「……リユウ、隣に寝ても?」
「いいよ」
 広いベッドは案の定、あまり暖かくなかった。
 リユウを引き寄せ、背中から腰の裏を両手で温める。体を密着させると冷たさを感じる。
「あー楽……」
「リユウ」
 流行りの胃腸炎でもなさそうだ。
「冷えだな」
「冷え?」
「昨夜、湯から上がって冷たいものを食べなかったか?」
「あ……」
 リユウは消え入りそうな声で「アイスココア3杯」と呟いた。
「それのせいなの?」
「おそらくな。あと30分して治らなかったら診断を受けに行こう」
「えー……じゃあギブ、30分一緒に居て」
 リユウの手が私の背に回される。
「……ギブの子供かと思ったのに」
 そもそも私は機械だし、リユウも私も男性だ。
 けれどそんなことはどうでもよくなった。
 その残念そうな呟きはリユウの冷えた体はもとより、私の体温よりずっと温かかった。


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