アリスを灼く雪の白

第十二章 頭の中が白くなる



 傍士たち7名が自首したらしい。傍士が「弟に自首を勧められた」と言ったとのことで、有栖に電話が来たようだ。
 有栖は頭が真っ白になった。先程まで笑っていた兄たちは、こうすると決めていたのだろうか。
 その電話の内容がまったく頭に入らないでいると、電話が話を終えたというように切れた。実際話は終わったのだろう。けれど、有栖には受け入れられなかった。
「アリス……?」
 灼が心配そうに有栖を呼んだ。
「シャク、兄さんが、自首をした」
「お薬の?」
「たぶん」
 灼が考え込み、口を開こうとした瞬間、再び有栖の携帯電話が鳴った。有栖が飛びつく。
 今度は輝夜だった。有栖の身内の自首の情報を拾ったらしく、心配している風だった。
 有栖の肉親が傍士だけだというので、義理の親だと思ってなんでも頼ってほしいというようなことを言われた。
 そのまま電話が切れようとしたので、少し引き留めて、灼に代わる。
「カグヤ?」
「シャク様。お元気でしたか」
「うん、元気だ。この件は、なんなんだ? なにか問題があるのか?」
「シャク様に問題はありません。少々アリス様がお忙しくなるかもしれませんが、何も大丈夫ですよ。シャク様、落ち着いていらしてください。そして、もしお時間があるときで構いませんので、いちどリョウ様にお会いしてください。リョウ様が、アリス様にお話があるそうです」
「アリスに? わかった、相談する」
「落ち着いていればなんということもありませんよ。では」
「うん、時間を見つけて行く。ありがとう」
 有栖に電話を返し、灼は、兄の涼が会いたがっていることを伝えた。
 有栖は何もわからない状態だったので、頭を冷やしたくて自分から「今から行こう」と提案した。
「アリス、大丈夫?」
「少しよくわかってない。だから、頭を冷やしたい」
「……うん、わかった」
 輝夜の「落ち着いていらしてください」という言葉がリフレインした。
 そして冬の空気の中を携帯電話の地図片手に歩いて50分、有栖と灼はスノーホワイト家に着いた。軽い挨拶のあと、二人は「どうぞ、楽に」と居間で涼の向かいに座り、熱音にラパン・ギャルソンのアップルパイを出された。灼が嬉々としてつつき始める。涼も手を付け、有栖も本当に久しぶりに食べるきちんとしたパイに舌鼓を打った。
「それで、アリス様にお話があるのですが」
 パイをつつきながら、涼は言った。
「この子を、人間にしてあげてください」
 あまりに唐突で、その場の誰も涼の真意を測れなかった。
「ああ、突然すぎましたね、失敬しました。ええと、私は輝夜から、アリス様の家にシャクがお世話になっていると聞きました。この子は昔から嫌がるということをなかなかしなくて、私は輝夜にはあまりいじめすぎないように言われているんです。でも、代わりに、好むこともあまりしなかったんです。特に人間関係は、苦手なようでした。顔、身分、整っていますでしょう。そういうところのやっかみから始まったひそひそ話に、この子は耐えられなかった。たまに変な顔をするのはご存知ですね? ぼんやりしているくせに、目だけすべてを貫通するような、そんな顔です。この子は、自分が人間離れしていると思い込んでいるのです、実際そういう面もあります。だから、人間らしい人間が人間らしく振舞わないと気に入らないので、少し自分の心から離れてしまうのです。でも、そんなことではスノーホワイトとしては生きていけない。好き嫌いがないのは好ましいことですが、この子はそれに従おうとしすぎて、少しだけ耐えられなくなってしまっているのです」
 涼はひとくち紅茶を飲んだ。
「そして、私の母のレイが、正式に私に家を継がせるとしたので、この子はこのままだと家を継がないのにスノーホワイトであらなければなりません。先述の通り、この子はスノーホワイトとしては生きていけません。シャク、おまえが劣っていると言いたいわけじゃない。向いていないんだ。わかるな? 誰にでもある、俺にだってある。な」
 灼は雰囲気にのまれ、小さく頷いただけだった。
「人間離れしている、の件ですが、それを問題視するようではスノーホワイトではないのです。罵られて、胸を張れるようでなければ。誰がなんと言おうと自分はこうである、と言う必要のある世界です。この子はそこが割り切れない。だから、アリス様に、シャクをお願いしたいのです。アリス様は、シャクと似ているところがあるようですので。この子の割り切れない部分を、アリス様なら理解してくださるのではないかと思いまして。お兄様の件、ご心痛かと。私などは、身内に何があっても関係がないのですが、アリス様は誰かのために心を痛めることができるようですので、もしシャクをお嫌いなのでなければ、お願いできませんか」
 有栖はわかりにくい話をなんとかとらえて、紅茶をひとくち飲んだ。砂糖でない甘さがした。
「シャクさんのお兄様、僕はそれでいいんですが、シャクさんはそれでいいんでしょうか」
「シャク、どうだ」
 有栖の問いかけに、即答で涼は灼に話を振った。
「僕は、嬉しいよ」
 灼も緊張していた。声が少し揺らぐ。
「ああ、よかった! 話したいことは、それだけです。あとはパイでもつつきながら、たわいない話をいたしましょう。遅ればせながら、ご足労いただき、ありがとうございます」
 そうやって、涼は有栖と灼にパイと紅茶を楽しませて、いったん熱音を連れて離席した。
 そして熱音に問う。
「これでいいのかな、ネネ」
「いいのではありませんでしょうか」
「二人は、恋愛で好き同士なのかな。それなら式をあげさせて服を作ろう。俺も同性婚は反対ではないし、話題にもなる」
 熱音が面白そうに笑った。
「シャク様は、化け物と呼ばれることを嫌がっていたようですが、リョウ様はむしろ好まれますね」
「当たり前だ、スノーホワイトは利用できるものは身内でも利用して、君臨する。それがあって初めて、スノーホワイトは自分を護れる。人間で居たいだなんて、甘すぎる。化け物になることが、人間らしさを探す一歩目なんだよ。生きていくには人間じゃ弱い、化け物は嫌、そんな問答の答えは、シャクには導けなかったみたいだけれど、僕は化け物になって、まず生きていこう、そしてゆくゆく人間になろうと思うんだ。それで、式の話だけれど、いまけしかけていいだろうか」
「やってみましょう」
 涼と熱音は席に戻った。
 灼はにこにこと有栖に話しかけている。有栖も楽しそうだ。
「失敬致しました、ときに、アリス様」
 有栖と灼、4つの目が涼を見る。
「恋愛関係で、シャクとご一緒にいらっしゃるのですか」
 有栖は一気に喉がからからに渇いた。
「……関係は持っていませんが、僕はシャクさんが好きです」
「シャク、おまえは」
「僕は……」
 灼は戸惑いながら、とりあえず知っていることを話す。
「兄さん、相手のことになると自分勝手になったり、発情したり、幸せになったりするのは、恋愛感情なの?」
「違うと思うか?」
「わからない」
「ちゃんと考えろ」
「考えた」
「じゃあ恋愛感情なんだろうな」
 その言葉はからかうものでなく、至極まじめだった。
「おまえには初めてのことなんだろう。考えても考えてもわからないんだろう。恋愛は、そういうものだよ」
 兄の微笑みは、灼が思わずどきりとしてしまうほど優しかった。
「アリス様、シャク、これから、5時間ほどお時間はありますか? 企画に参加していただきたいのです。お礼は致します。お願いできませんか。スノーホワイトの服を着て、写真に写っていただきたいのです」
 灼は有栖を見た。有栖は目が合い、少し笑いながら、「今日はいちにち空いています」と答えた。
「ああよかった。では、早速お願いします。スノーホワイトが同性の結婚式を歓迎する意志を示すために、お二人にご協力いただけるとありがたいのです。それから、ディナーはご馳走しましょう。そのディナーも撮影させていただけるとありがたいのですけれど、いかがでしょうか」


 ―――アントワネット さんの発言
待って 待って 実直さんがネットの広告に載ってる 林檎さんと一緒に 身バレする? だけど既に顔写っちゃってるしほんと どうしたの アントワネットさんはどうしたらいいの あのね、とある服屋が、同性婚を歓迎するってやつなの リアルホモだったの? 大丈夫なの?

 ―――名無し さんの発言
なんてページ? アドレス希望

 ―――アントワネット さんの発言
どこもかしこも! 詳しく言うと本気で身バレするけど本当にそっちこっちに出てる 白無垢もタキシードもドレスもなんでもござれらしい

 ―――名無し さんの発言
調べたらなるほど出てきた 式なんですね ここまでくると妄想とかできないし「おめでとう」と思いながら服の通販眺めるしかない

 ―――アントワネット さんの発言
ほんとそうなの すごいひとと知り合ってしまった

 ―――名無し さんの発言
!? 待って? みんないま白いの見てる? なんか新着のHyahooのニュースで、さっきの二人が料理食べてるんだけれども

 ―――アントワネット さんの発言
!? kwsk

 ―――アントワネット さんの発言
あった! あった! フランス人のあれでしょ! フランス人の料理でしょ!

 ―――名無し さんの発言
そうそれ! これさっきの同性婚の二人だよね? そっくりさん?

 ―――アントワネット さんの発言
たぶん、十中八九さっきのひと

 ―――名無し さんの発言
おめでとう!!! おめでとう!!! ほらみんなで!! おめでとう!!!

 ―――名無し さんの発言
おめでとう!!

 ―――アントワネット さんの発言
おめでとうー!! 忘れてたww 結ばれたってことよね! よかった! 出勤してきたら根掘り葉掘り訊く!

 ―――名無し さんの発言
ただのモデルの可能性はないの……?

 ―――名無し さんの発言
あっ

 ―――アントワネット さんの発言
あっありうる……実直さんは背が高い 明日訊いてくる そしたらみんなできちんと祝おう 危ない危ない、またフィルターかかってた 名無しさんさんくす


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