アリスを灼く雪の白

第十五章 ホワイトアウト



 家に着くなり、灼が有栖を押し倒した。
「シャク?」
「アリス、我慢できない。さっきも変になった。今も変だ。アリス、どうにかしてほしい」
 欲情しているのだ、と、その潤んだ瞳に有栖は悟る。
「わかった、きちんとするから、玄関ではやめよう。きちんとベッドでしよう」
「本当に、してくれる?」
「する。するよ」
 灼はしばらく有栖に縋り付いていたが、やがてブーティのジッパーを下ろすために離れた。
 有栖も耳元で鳴る心音をなだめすかしながら、靴を脱いでエアコンを動かし、風呂を沸かした。
「風呂からあがったら、きちんと、しよう」
「うん」
 灼は従順に頷くと、着替えを持って脱衣所に向かった。
 有栖はポケットの中に納まっていたゴムを引っ張り出し、心を整えた。
 すー、と息を吸い、はー、と吐く。有栖は性体験がなかった。ふっと気づき、慌ててPCを立ち上げ、セックスのマナーサイトを見て回った。まったく頭に入らなかった。
 そうしていると、灼が戻ってくる。PCの電源を落とし、入れ替わりで風呂に入る。入念に体を洗った。
 風呂から出ると、灼が枕に顔を埋め、脚をベッドの上でばたばたさせていた。
「シャク……?」
「アリス……もう、なんだか本当に変なんだ、早く楽にしてほしい、どうしたらいいかわからない」
 枕に顔を押し付けたまま灼はそう言った。有栖は熱烈に自分を求められることに高揚し、うつ伏せの灼の上に覆いかぶさるようにベッドに乗り上げ、灼の耳に口づけた。
「ひゃ……アリス……?」
 体をびくんと反応させた灼が体を起こそうとする。胸がベッドから離れ、その隙間に有栖は手を差し込み、既に硬く尖った頂を撫でた。そして、少し強く摘まんだ。
「んんぁ……ん、アリス、それ、嫌だ、ますます、変な感じがする」
 灼が逃れたがるように身じろいだ。有栖はそれを許し、仰向けになった灼の服を脱がせていく。サイズの合っていないボトムを引きおろし、上は胸が見えるところまでまくり上げた。
 灼のそこは待ち望んだことを主張するように張りつめていて、有栖はそれをそっと手で包んだ。
「ふあぁあっ……アリス、アリス、早く、して……」
 緩く手を動かす。それだけで灼は身を捩って喘いだ。
「んああ、あぁう、アリス、あ、アリス、や、嫌だ、苦しい、アリス、はあぁあ、んう、ああぁっ」
 有栖の手が濡れ始める。
 有栖は空いている手で灼の片脚を抱えあげ、濡れた手で奥を探る。
「あっあ、アリス、そこ、入れて、中、気持ちよく、して……!」
 中指がつぷりと門を通る。中はひんやりとしているが、興奮を物語るように指を歓迎し、絡みついて手厚くもてなしている。
「ぁああああ!」
 ある個所に触れた瞬間、灼が悲鳴を上げて体を跳ねさせた。痛かったろうかと焦る有栖をよそに、灼は腰を揺らめかせ、そこを触ってほしいのだと体で訴える。
「アリス、もっと、そこ、もっと、お願い、アリス……!」
 指を曲げるように刺激すると、再度灼は鳴いた。
 具合が分かり、ぐ、ぐ、と押し上げるようにする。
「あぁっ! ひ、んん! んぁあ! うぁ、アリス、あぁ! もっと、ああぁっ、もっと……アリス、もっとっ」
 人差し指も挿入し、2本の指でそこをいじるように刺激する。
 次第に、有栖が刺激するペースに合わせて中が特別締め付けるようになって、有栖は指を引き抜いた。
「やっ、アリス、もっとして、抜かないで、アリス」
「僕も、気持ちよくなっていい、シャク?」
「ん、一緒に、よくなろ、アリス、早く、早く」
 脚を再度抱え直し、いきり立った有栖を灼の入口に宛がった。
「いっぱい、中、アリスので、よくして、アリス、入れて」
 なかなか広がりきらない入口を切ってしまわないよう、ゆっくりと有栖は体を埋めていく。
「は、はぁっ、アリス、いいよ、もっと奥、来て」
「僕も、少し苦しいから……ゆっくり、させてくれ」
「ん、入ったら、ちゃんと、いっぱい、して」
「ああ、そうする……シャク、もう少し、力を抜けないか」
「いれてない、アリス、もっと乱暴でも、いいよ」
「じゃあ、少し、我慢して、くれ」
 そう灼の耳元で呟き、有栖は灼の腰を両手で押さえ、少し勢いをつけて、ず、と腰を進めた。
「ぁぐっ……あり、す、アリス……」
「痛いか……?」
「ん、でも、もっと、してほしい、アリス、」
 いつの間にか人肌程度まで上気した灼の体温が有栖を抱き締めるように腕を回し、抱え上げられた脚が有栖の背に絡む。そして、有栖の体を支えにし、灼は腰を使いはじめた。
「んっ、あ、ぁ、はぁ、ぁぁっ」
「シャク、すごい、上手」
「だって、アリスが、して、くれないから」
「動いて、大丈夫か」
「動いて、来て、アリス」
 いったん腰を引き、それを嫌がった灼の奥までを一気に貫く。
「ああぁああ……ぁあ、っあぁあ!」
「シャク、大丈夫か、苦しく、ないか」
「ん、くるし、けど、でも、いい、よ、きもちい、」
「シャク、」
 眉を寄せてつらそうに有栖に揺さぶられる灼に、有栖は唇を求めた。
「アリス、また、朝の、気持ちいいの、して、あれ、好き」
「そんなに、よかったか」
「うん、すごく、よかった、ねえ、して」
 灼の方から有栖の唇にむしゃぶりつく。
「ん、んんぅ、ん、ふっう、ん」
 灼はとめどなく声を溢れさせながら、有栖の舌に吸い付いてくる。
 舌を絡めながら腰を動かすと、灼は少しつらそうな声を上げた。有栖はいちど唇を離す。
「んっは、アリス、アリス、キス、いい、けど、体、なんか、もう、おかしくて、」
「ああ、中も、こんなに熱くなって」
「アリス、中、熱いの……?」
「熱いよ」
「ほかのひとより……?」
「僕は、ほかのひとを、知らないから」
 灼は上がった息で少し笑った。
「アリス、初めて、なの?」
「そう、だな」
「じゃあ、僕、いっかい、したこと、あるから……教えて、あげる」
 灼が妖艶なほど苦しそうに笑い、繋がったまま、有栖を下に組み敷くように体位を変えた。
「っ……シャク?」
「僕が、動くね、アリス」
「こういう、ことも、リュークさんと……?」
「してない、しちゃ、だめなの?」
「僕は、いい、けど」
「じゃあ、させて、アリス」
 灼は膝をついて、体を少しずつ浮かせ、悩ましい声を漏らしながら体を沈め、埋め込む動きを始めた。
「んぁあ、っは、あぁっ、」
 有栖は空いた手で灼の胸まで服をまくり上げて触れ、尖りを押し潰す。
「ふあっ、あ、っあ、アリス、それ、きもちい……」
 潰しても潰しても何度も硬く色づく果実は、触れられるたびに中の痙攣を伴って有栖を誘った。
「ん、はぅ、アリス、アリス」
 灼の動きが急かすように小刻みなものになる。
 有栖も自身の先端に当たる硬い肉壁が快楽の種なのだとわかり、下から突いてみた。
「あぁああっ! や、アリス、それ……ああぁっ!」
 灼が体を支え切れなくなり、有栖の上に体を倒し、有栖にしがみつく。
「アリス、アリス、待って、アリス、まって」
「シャク、どうして」
「きもちいい、なんか、体が、変で、さっきまでも、変だったけど、今、もっと変で」
「シャクは、イったことは、ないのか」
「イく、って……?」
「ここから、」
「ひぁんっ!」
「気持ちいいのを、出すこと」
 なぞりあげて教えると、灼は腰をびくびくと震わせて、けれど達するわけでなしに、有栖の上で息を整える。
「なくは、ない、けど」
「じゃあ、わかるだろう」
「違う、違うんだ、なんだか、いつもより、変、で」
「どう、変?」
 灼はしばらく息を整えて考えていた。
「……あっつい、感じ」
 有栖はその言葉に誘われ、灼の背を固定するようにしっかり抱きとめる。
「じゃあ、あっついの、出してみろ」
 下から先程の場所を狙って思い切り突いてみる。
「ふあぁあっ! だめ、だって、アリス、ほんとに、変だから、ほんとに、出ちゃうから、」
「ああ、出してごらん」
「嫌、嫌、アリス、待って、ほんとに、ほんとに、」
「灼が出してくれたら、僕も、気持ちいいし」
「だって、汚して、しまうから、」
「何を?」
「服、とか、」
「シャクが、汚れてしまうので、なければ、服くらい、汚していい」
「だって、本当に、アリス、いいの、出して、いいの……?」
「ああ、出したくなくても、出させるくらい、気持ちよく、してやりたい」
「ん、ずっと、きもち、いいよ、ずっと、我慢してて、だから、」
 灼の後頭部に手のひらを添え、きつく抱きしめる。そのまま何度もそこを抉って、耳元で上がる嬌声に酔いながら、灼を追い立てていく。
「あっ、アリス、だめ、だめ、もう、あ、あぁ、アリス、あ、」
「だめ、じゃないだろう、足りないなら、もっと、しないといけないな」
 灼と有栖の腹の間で擦れていたその熱を、有栖は握り直す。
「っひ……アリス、それ、だめ、本当に、」
 構わず、激しく扱いてやると、灼は体を跳ねさせ、中を締め付けて、高い声で鳴いた。
「あ、あああ、あぁっ……く、あ、だっ、め……あぁああああっ!」
 灼の体が大きく痙攣する。有栖は手の中の熱が弾け、熱い粘りを吐き出したのを見とめた。
 有栖も限界だった。きつく締まったままの中に何度も熱を押し込み、奥で欲をぶちまけた。
 乱れた息を整え、そっと灼から身を引く。灼は気絶してしまっていた。
 そういえばもらったゴムを使わなかったな、などと要らないことを考え、灼の後始末をしてやる。
 そしてシーツを替えて、眠りについた。
 灼を抱き締めたままだったが、冷たさは感じなかった。

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