アリスを灼く雪の白

第十六章 白無垢



 涼は灼からの着信に応じた。
 正直なところ寝ている間で鬱陶しかったが、初めての弟からの着信をむげにはできなかった。
「もしもし」
「もしもし、兄さん、いま大丈夫か?」
「ん、今くらいしか聞けないから、言ってみろ」
「欲を持ったんだ」
「は?」
 眠たいせいで少し乱暴な返しになったが、そういえば自分は弟に『欲を持て』と言ったのであった。
「アリスと、結婚式をしたい。きちんと、好き同士になって、母さんとか、アリスのお兄さんとかも呼んで、したい。だから、この前の服をもういっかい貸してほしい」
「新調してやる。いつがいい?」
「ええと、いつでも、近いうちに」
 涼は自分のスケジュールを思い出す。来週はイタリアへ行く。ふたつき程度かかる予定だ。
「明後日。この前の式場に来い。呼びたい人は?」
「母さん、兄さん、ネネ、カグヤ、リューク様、マリエさん、肉屋さん、アリスのお兄さんのボーシさん、ハナさん、フウさん、カイさん、セキさん、セイさん、スイさん……この前、自首したひとたちなんだけど、大丈夫かな」
「なんとでもする。安心しろ」
「ありがとう」
「結婚式と感謝は人間しかしないからな。幸せになれ」
「幸せだよ」
「何よりだ。じゃあ、明後日」
 涼は一気に醒めた目で仮眠のベッドから起き上がった。
 熱音と輝夜に連絡をして、服を考えないといけない。
 輝夜が灼の父親だということも、もう潮時だろう、教えてしまおう。
 自首組は面倒だが、熱音がうまくやるだろう。薬がどうのと言っていた。禁断症状で狂っている頃だろうか。それとも、フラッシュバックさえ気を付ければいいだろうか。まあ、熱音に任せよう。
 リュークは、あれは大変な男だった、灼に言い寄って面倒だった、式で一番泣くタイプだ。泣かせておけ、灼は感涙だと受け取るだろう。
 部屋を出るなり、熱音が慌てふためいて涼に駆け寄った。
 涼は涙を溢れさせるままにしていた。




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